世代を超えて受け継がれる“強い家”
木内 健一
株式会社 丸八工務店
千葉県旭市で1966年に創業。「東総災害に強い家づくりの会」前会⻑。創業時から続く「命を守ってこそ家」という社訓のもと、⼀回り⼤きい柱や梁など、頑丈な作りの注⽂住宅が評判。宅地建物取引⼠免許も保有し、⼟地探しから⾏える⼯務店。
世代を超えて受け継がれる“強い家”
「現在、社員数は5名。少数精鋭だからこそ、⼤⼿ハウスメーカーよりもコストを抑えて、強い家づくりを実現できるのが私たちの“強さ”です」。そう語るのは丸⼋⼯務店の⽊内社⻑。幼い頃から、⼤⼯で創業者の⽗の背中を⾒てきたが、元々家業を継ぐつもりはなく、学校卒業後は地元の団体職員として働き始めた。経理・会計部署へ配属され、お客様の集⾦も担当。「集⾦で出向いても、歓迎されないケースがほとんど。中には鎌を投げられたことも。その頃から、とにかくお客様の話をよく聞くことを意識していました」。在職中に宅地建物取引⼠と⼆級建築⼠の資格を取得。奥さまも、ほぼ同じ時期に建築⼠の資格を取得した。「資格は家業を継ぐつもりで取得したのではなく、単純に⼆⼈とも、建築が好きだったからなんです」。
父と息子の仕事の役割
28歳で団体職員を退職後、父からの誘いもあり丸八工務店へ入社。「ちょうどお客様が増え始めて忙しい時期。最初は接客やプランニングから始めました。一生懸命やってきた父のお客様からお話を聞いて、計画を立てる役割です」。地域の工務店ではいち早く取り入れたCADを使いお客様への提案を行った。親身になって、冗談も交えながら話を聞くときに役立ったのは、団体職員時代に培った技術と話術だ。「当時はほぼすべてが紹介受注でした。父の作った家の評判が良くて、みなさまにご紹介いただけました。昔ながらの大工で口数の少ない父は、口ではなく仕事の結果で信じてもらうタイプ。一方のわたしは、父の仕事をお客様へうまく伝える役割でした」。
命を守る強い家:父から受け継いだ人の繋がり
「命を守ってこそ家」とは、丸八工務店の社訓だ。しっかりした地盤の調査、通常より一回り大きい柱や梁、全ての壁に入れる筋交など、昔から、地震でも倒壊しない家を目指して建ててきた。事実、東日本大震災では旭市内で1,000件を超える全半壊があったが、丸八工務店の建てた家は倒壊しなかった。築40年、50年の家でも倒壊しない、がっしりした頑丈な家を先代から受け継いでいる。「わたしがまだ幼いころから、父はこんなに素晴らしい家を建てていました。<住み続けたら良さがわかって、知り合いに紹介したくなるのよ>。まだ若かった当時、OB様から言われた一言です。感謝しかありません。父が作ってくれたこの人の繋がりを切ってはいけないと心に誓い、いままでやってきました」
キャッチフレーズは”いつも近くの工務店”
先代から受け継ぎ30年、木内社長は同じく建築士でもある奥さまとの二人三脚で続けてきた。先代が作った土台と評判に奢ることなく、お客様の悩みや要望に真摯に向き合ってきた。政府から長期優良住宅が発表された際も、地域でいち早く導入した。会社の特徴を活かした長期優良住宅を作ることで、お客様にメリット高い補助金のご提案も実施してきた。「お客さまとの距離はかなり近いと思います。例えば打ち合わせ回数でいうと、最初のご訪問からご契約まで最低でも8回、多い方では15回以上、図面、間取りや設備の打ち合わせを行います。その後、トイレやキッチンなど実際の住宅設備を見るために東京のショールームにお連れします」。業界ではお客様だけでショールームに確認に行くことが多い中、丸八工務店では社長の運転で、奥さまも一緒に見学にいく。「わたしにはこれが当たり前なんです。お客様のために一生懸命になりたい。見学時は気軽に質問できる人が近くにいたほうがいいし、見学時間も早く済む。車ではお客様といろいろな話をします。これからの長いお付き合いが始まる前に、人間同士の信頼関係ができあがっていく時間が好きです。たまにするお子様の子守も楽しいですよ」。ふと見た名刺に書かれていた”いつも近くの工務店”。その意味がわかった気がした。
お客様と大工さんのマッチングを意識する
お客様からは大工さんの評判も良いと言われるとのこと。技術はもちろん、基本的な掃除や次の日の説明など、当たり前のことをしっかり行う。「大工さんは、父の代から続く長いお付き合いの方々ばかりです。基本的には人の良い方々ですが、どうしても人間なのでお客様との相性があるのも事実。だからお客様と大工さんのマッチングは常に意識しています。そこの人間関係をトラブルなく円滑にすることで、この先の長いお付き合いもうまくいくと考えています」
3代目が目指す家族団欒の家
2017年には3代目となる息子の伸さんが入社。建材メーカーでの修行経験を活かし、いまはお客様のアフターケアを中心に行う。「まだまだ経験は不足していますが、将来は家族団欒をテーマにした家を作りたいです。これから人口が減っていき、ビジネスとしては厳しい局面に立たされるかもしれません。そんな中だからこそ、祖父から続くいままでのお客様を大切にしていきたい。“命を守る強い家”の良さを体験されたお客様へ向けて新しい提案をしていきたいです」。
“ありがとう”の意味
丸八工務店では、いままでのお付き合いに対する感謝の気持ちと、OB様との接点を保つために、松下幸之助が創設した出版社の冊子”PHP”を、毎月500名以上のOB様へ送付している。「街中でOB様にバッタリお会いすることがあります。そのときに<あら伸くん、冊子ありがとうね>とよく言われるんです。でもその”ありがとう”は、もちろん冊子に対してでもありますが、その昔に祖父が建てた家のことでもあり、OB様がそこで暮らしてきた思い出に対してでもあり、父がしてきたケアに対してでもあるような、当社とのいままでの関係すべてに対して<ありがとう>と言われている気がします。それだけ、祖父母と両親が行ってきたことは地域にとっては大事なことだと実感しています」。
創業者が作り上げた“命を守る強い家”は、世代を超えて受け継がれている。それはいつしか人の繋がりを生み、住むことだけではない大切な役割を果たしている。”この大切な繋がりを切らすことなく、ずっと続けてみせる”。若き三代目の目の奥からは、そんな強い気持ちを感じることができた。
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